近江上布、大西新之助商店を訪ねて

どこにご縁があるかわからない・・・。きっかけは、某大手進学塾の社長さんから話を聞かせていただいたことで、こんな近くにそんなステキな方がおられるのかと、大いに興味を持ったことに始まる。

大西新之助商店

琵琶湖東岸(滋賀県彦根市新海町)で近江上布を織り続ける伝統工芸士・大西實さん。話を聞いて以来、一度会ってみたいと思い続けていて、やっとのことで今日それが実現した。

中高の生徒や大学の学生に、郷土を学ぶ意味で、体験学習的に近江上布を原材料の刈り取りから学んでみてはどうか・・・。そんな思いも抱きながら、学園長と一緒に工場を訪ねた。

入り口は、歴史を感じさせる看板がかかっているのみで、プレハブ2階建ての殺風景な工場だ。

中に入って、ご挨拶がてら少し話した後、原料である苧麻が自生しているところに連れて行ってもらった。

えっ? ここって、昨日の夕方ランニングで通ったところやん! あまりの偶然に驚きながらも、これが原材料になるのかと、ちょっと不思議な気分。普通に生えてたら、雑草だといいながら刈り取ってしまいそうだ。

琵琶湖の東岸にある近江・愛知川は湿度が高く、高温多湿の条件を好む麻布の生産に適しているそうで、鎌倉時代に彦根藩に上納されていたという、歴史ある上布。

まだ十分に伸びていないといいながら、刈り取った後の手順を大西さんから紹介してもらう。刈り取って保存しておくことができないそうで、一日で処理できる分量しか刈り取らないとのこと。なかなかお手間入りだ。

刈り取った苧麻は、茎の部分をくの字に折って、表皮を薄くはがしていく。その皮を裏表両面から葉肉をそぎ落とす形で繊維だけにし、それをつないで麻糸にするとのこと。

一日6時間ほど作業をしても、できる糸はわずか20グラムほど。まさに気の遠くなるような作業だ。

葉肉をそぎ落とすのに使う道具がこれ。板の上に表皮を固定し、金属製のへらみたいなもので削いでいく。

できあがった「麻糸のもと」になる繊維があったので、見せてもらう。ちょうどこれで一日分、約20グラムとのこと。

糸にした後は、織る前に模様や絵柄をつける作業が待っている。型紙をカッターナイフで切り取り、生地に編み込む模様を作る。

それを、生地の幅に巻かれた横糸に写していく。写し取った後は、糸をいったん外し、織機にセットできるよう巻き取っておく。

あらかじめ縦糸が張られた織機に、先ほどの横糸を編み込んでいく。縦糸のテンション(張りの強さ)が生地の風合いを決めるそうで、そこに個性が出るらしい。

大西さんの生地(反物)の箸の部分には、しっかりと「新之助上布」のロゴが入っていた。これぞまさしく「伝統工芸品」。伝統工芸士の腕の見せ所だ。

工場にはいろいろな織機があって、それぞれに特徴ある上布が織られていた。この機械には、真っ赤に染め上げられた縦糸が張ってあった。さて、どんな生地ができあがるのだろう。

一本一本、それこそ気の遠くなるような細かな作業。麻糸は切れやすいとのことで、取り扱いも極めてデリケートなんだそうだ。

今から20〜30年ほど前の値段で400万円ほどしたという自動織機。今ではコンピュータ制御のものがどんどん中国に送られ、そこで大量の生地を生産しているということだが、大西さんがこだわるのは、あくまでも自分の工房で織り上げた、独特の風合いのある手織り上布。

いくら機械で織っているとはいえ、一本一本の糸の張りや織り具合を確かめながらの作業・・・。そこに並々ならぬ職人の「魂」を感じた。

問屋に卸さず、すべて直接販売しているという大西新之助商店の「近江上布」。少しずつその良さが認められ、あちこちで作品展なども開かれている。

この4月1日からは、大津プリンスホテルの1階にあるスーベニアショップで商品が販売されるようになり、ますますその名が知れ渡りそうだ。

また、藤岡育子(湖藤) さんが、地元の織物、近江上布を皆様にご紹介したくてネットショップをオープン。商品にまつわる話なども豊富なWEBサイトでは、藤岡さん自らブログで情報を発信。その良さがひしひしと伝わってくる。ぜひ一度、お訪ねを!

☆新之助上布ウェブショップはこちら →  http://shinno-suke.shop-pro.jp/

さて、ボク自身は・・・

今日の訪問を機に、少し本格的に近江上布に触れてみようかと思う。こんなに近くにありながら、全く知らなかった伝統の「技」と「匠」・・・。まずは6月頃の、苧麻の刈り取り、そして糸づくりの見習い修行から始めてみたい。


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