●近江商人のエピソードに学ぶ
本屋さんで、ふと目についたタイトル。
『釣られない魚が大物になる―手術職人の生き方論』
「ブラックジャックによろしく」のモデルであり、
メディアにも取り上げられる心臓外科医・南淵明宏さん
の著書だということで、思わず買ってしまった。
内容充実で、一気に読破!
著者からの紹介にある、
ティム・バートン監督作品『ビッグ・フィッシュ』で沼地の魔女がささやいた
「人に釣られない魚が、結局その後大物に育つんだよ!」。
このセリフを、仕事において、人生において、自信を失いがちなすべての人に贈ります。
正しい欲望、感受性、真の職業倫理を取り戻すために。
人や組織、時代の風潮に釣られることなく、自分の信念を貫く者こそ
人として大きくなることができる。
あなたのその判断・決断は、「組織の論理」や「価値観」に染まってはいないか。
真実を見失い、「偽造」「捏造」「疑惑」に揺れる社会の中で、
プロの仕事人として、誇りを持って生きているか。
「手術職人」としてギリギリの決断と選択を繰り返す一人の心臓外科医が問う。
・・・の通り、なかなか考えさせられる内容がつまった本だ。
その中の一節に「近江商人のエピソードに学ぶ」と題した、こんな一文がある。
近江商人と言えば、私の好きな話があります。
『てんびんの詩』(梅津明治郎監督、一九八八年)というビデオになっている話で、
伊藤忠商事では新入社員研修のときに見るのだそうですが、こんな話です。
近江商人は天秤棒を担いで全国を行商していたことで有名です。
そんな近江商人の息子が小学校を卒業する年齢になりました。
近江商人の子どもたちは近江八幡商業学校に行くことになっていて、
子ども同士で「おまえ、どこ行くねん」「八商行こうと思うねん」「ぼくも八商や」
とか会話するわけです。
その中の一人がある日学校から帰ると、父親から
「おまえは明日から鍋蓋を売ってこい」と命じられます。木でできた丸い鍋の蓋です。
それを天秤棒に載せて売ってこい、売ることができたら八幡商業へ行かせてやると
言うのです。
少年は翌日から鍋蓋を天秤棒で売りにでるのですが、
子どものことですから最初は親戚や知人に頼ります。
ところがそこでは「あかん。そんなことしたら大将に怒られる。
あんた、自分で売りなさい」と叱られてしまう。
と言っても、そうそう売れるものではなくて、彼は途方に暮れてしまいます。
そんなとき、ある家で鍋蓋を庭先に干してあるのを見つけます。
これを壊してしまえば新しいものを買ってもらえると考えた彼は、
その鍋蓋を壊そうとします。
ところがそれを見つかって家の人に追い回される羽目になったりします。
どうにもならなくなった彼は、中学進学を半ば諦めながら川べりに停んでいました。
するとそこに、古い鍋蓋が捨ててあることに気づきます。
手にとってみた彼は「これはまだ使えるんじゃないか」と、その鍋蓋を磨きはじめました。
そこに通りがかったひとりのおばちゃんが、少年になにをしているのか尋ねます。
「私は鍋蓋を売って歩いているんですが、全然売れへんのです。ふと見たら、
ここにこの鍋蓋が捨ててあって、これを売った人もえらく苦労したんやろなとおもたら、
鍋蓋が愛しく思えて」
それを聞いたおばちゃんが、「よし、あんたの鍋蓋、ひとつ買うたるわ」と、
そこではじめて鍋蓋が売れました。
家に帰ると、父親が彼の担いでいた天秤棒に名前と日付を書き込みます。
それを奥の座敷に持っていくと、同じような天秤棒がずらりと並んでいて、
そこには父親自身の名前やその父親、そのまた父親と、
代々の当主の名前が書かれていました。
「うちはおまえの年になると、みんな天秤棒を担いではじめての商いに行ったんや。
よう売ってきたな、八商に行ってええぞ」
と、そんな話です。
いい話です。商品を売ることに身体を張って、命を張って、真剣勝負をする。
そして、自分が人生を賭けている商品に対する愛情を持つことの重要さが
よく表現されている物語でした。
命がけとか真剣勝負と言うと、なにか根性論のように聞こえてしまうかもしれない
のですが、あまり売る気もないのになんとなく売れちゃった、ではなくて、
必死になんとか売ろうとしたものが売れた嬉しさは、間違いなくあると思います。
そして、そのことにこそ価値があって、その価値を享受することができるのでしょう。
まず大切なのは、自分の中に価値を見いだすこと、価値を作り出すことだと思います。
この話の少年は最初、鍋蓋なんて、と思っていました。しかし、それを売ることの大変さを知り、
常日頃、鍋蓋を売ることを本業としている人達の苦労、そして商品である鍋蓋への愛情、
商品が売れること、それらすべての価値を見いだしたわけです。
自分自身で価値を見いだしたら、今度はそれを周囲に、まずはコリッグに伝播させる。
そしてさらにディーラーへ、エンドユーザーへと広めていく。そのときには、
商品対応、競争対応、社会対応という三つの要素が重要になってくるのですが、
その価値の伝播、概念を広めていくことがプロモーションの基本だろうと思います。
それにしても、鍋蓋を売った少年の価値とはなんだと思いますか。
それは「誠実さ」です。
「誠実さ」を売り物にするという手法は、最も手っ取り早く効果的で、お金もかかりません。
そして釣り上げられずに一人でもやっていける、本物の力になるのです。
どうだろう。
心に響くものがありはしないだろうか・・・。
この一文を読んで、真っ先にここで紹介したいと思った。
どこか生き方の”明かり”みたいなものが見えたような気がして、ココロが動いた。






